◆◇◆エゾシカの裏と表 そしてこれからの流れ


合同会社 エゾプロダクト代表取締役 菊地 隆(2017.04.15)


シカ革デザイナーといえば、この人あり!

北海道の草分け的存在として、シカ革活用の道を切り開いてきた菊地隆さんに、私たちの知らない北海道のエゾシカ事情を伺いました。 


4月15日講座チラシ
4月15日講座チラシ

 

「エゾシカ捕獲の現状」

エゾシカの捕獲頭数は2015年度で約12万5千頭。この内、食肉に利用されるのは17.6%。残りは廃棄されている。また、世界で皮を棄てているのは日本だけ。

解体処理場は古いところを併せると約60か所位あると言われているが、適性に稼働しているのは約3割といわれる。あとは老朽化している施設が多い。

頼みのハンターは、10年前で登録者数2万人いたが、ここ数年は9,000人程度。大半は65歳以上、しかも実質稼働率は6割にとどまる。猟銃価格は30万~100万円と高価なうえ、年間維持費は20万円。ハンターを増やす方策を考えなければならないだろう。

 


講座風景写真
講座風景

 

駆除の報酬」

エゾシカは、年間10万頭撃たれているが、その内訳は冬期狩猟(10月末~3月末)で6万頭、夏期の有害駆除4万頭となる。狩猟はスポーツ(趣味)だが、お金を出す市町村もある。駆除は管理計画に基づき、市町村の要請で行われるので、駆除金が出る。一頭につき、6000円~8,000円。現物(尾、右耳、左耳など、一つしかないもの)を役所に持参し、お金の支払いを受ける仕組みだ。

 

 


「捕獲したシカの処理について」

捕獲した鹿を、一部であってもその場に放置することは鳥獣法違反。場合によっては廃棄物処理法違反に問われることもある。

捕獲個体は持ち帰りが原則。持ち帰ることが困難な場合はその場に埋めることが認められている。法律上は「環境に配慮した方法で埋めること」となっている。深さや方法についての数字的な決まりはないが、熊などが簡単に掘り返せないよう深く穴を掘らなければならない。熊は臭いがすれば重機で掘ったような深い穴を掘ることもあるからだ。


「食用にするなら」

食用にする場合、北海道は野外で内蔵を出さないように指導している。食用にするなら食肉処理場に持ち込み、お金を払って解体してもらい、肉だけ持ち帰る。処理場に買い取ってもらうこともある。


「捨てる場合」

捨てる場合は一般廃棄物扱いなので、市町村などが運営する処理場に持って行く。この運搬は、捕獲者の責任で行う。各処理場の決まりに従った方法で持ち込まなければならない。通常は、ゴミ袋に入る大きさまで解体するよう求められ、1頭丸ごと受け入れる処理場はないようだ。その場で解体したときに出る血液は、土中に浸透されるため”放置”とはみなされない。 



「シカ問題は北海道だけではない」

道内の適正数は20万~40万頭ではないかと考えている。平成27年度の推定生息数は47万頭。しかし、道南は入っていない。つまり、本当の数字ではないということ。それ以前は60万頭と推測されていた年もある。

シカ問題は、北海道だけではない。九州・本州合わせて305万頭いる。(北海道は入っていない。2013年データ) 

どうして、こんなに増えたのか。オオカミという天敵がいなくなった、地球温暖化で生き延びる小鹿が増えたなどの理由が挙げられるが、一番の大きな原因は「文明の発達に従い、山と人間の住む場所が接近した」ことではないかと考えている。


「日本シカの種類は7種」

昔は日本列島に20種もの日本シカがいたが、今は7種のみ。

・エゾシカ(北海道)・ホンシュウジカ(本州)・ツシマジカ(対馬)

・キュウシュウジカ(四国、九州)・マゲシカ(鹿児島県馬毛島)・ヤクシカ(鹿児島県屋久島)

・ケラマジカ(沖縄県ケラマ諸島、人為移入)

※キョン・・・もともとは日本シカだが、中国にわたって体が変化した。



※ヤクシカの住む屋久島は、世界自然遺産に登録されている美しい島。一周180キロメートル。島の人口1.4万に対し、サル1.5万頭、シカは2万頭。小さくて、山羊に近い。エゾシカは一頭から25キロの肉がとれるのに対し、ヤクシカは4キロである。周りが海に囲まれていて外に出られないため、近親交配で繁殖している。

屋久島全景写真
屋久島全景


「イノチヲツナグ」

シカも尊い命。撃たれてゴミになるなら、皮革として活用することで命を繋いでいきたい。世界で皮を捨てているのは日本だけ。ヨーロッパではシカ革の需要は高い。グッチ、エルメス等の製品でもシカ革を使うと高価になる。シカ革は北海道の誇るべき資源なのだ。だが、捨てている。そして、シカ革を輸入している。ちなみに、日本に入ってきている外国のシカ革は98% 輸出元の殆どはオーストラリア。ニュージーランド。中国。フィンランド。日本の伝統文化である印伝さえも輸入したシカ革が主となっている。量産が進めば進むほど輸入が増えると思う。


輸入されているシカ革は養鹿されているものだ。養鹿されているシカ皮の利点は傷がないこと。一定の品質を有し、革になりたての状態で日本に入ってくる。手間もかからない。量産に向いている。安く提供できる。鞣しから始めようとすれば、塩漬けにして水を抜く作業が必要となるため、輸入したほうが効率的だという側面がある。

 

だが、野生獣の革の魅力は、自分らしい自分だけのものができることだ。世界で一つ。野生獣には、個性があるので同じ鞣しをしても同じにはならない。「エシカルとサスティナブル」を兼ね備えた製品づくりに、これからもこだわっていきたい。