エゾシカ捕獲の課題とは? 2020.5.13


贈呈頂いた書籍 続「エゾシカ飼うべ」をガイドとして


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贈呈頂いた書籍

(公社)日本技術士会北海道本部 社会活動委員会エゾシカ研究員会様より、エゾシカ研究員会活動報告書「エゾシカ飼うべ」の上下巻を贈呈頂いた。書店では入手できない貴重な一書だ。この本の主題は、そのタイトルが示すようにエゾシカを北海道の資源としての新たな産業作りには、安定供給できる手法として一時飼養を提案するものである。そのためには、生体捕獲が必要であるが、それについては後日、改めて触れるとして、本ページでは、当該本をガイドとして「捕獲の課題・問題点について記述する。エゾシカ捕獲は「増えすぎたエゾシカを減らすこと」と「エゾシカを資源として活用する」という二つの課題の同時解決にはなるが、現場には様々な現実があるようだ。



 2020年初頭から人類はかつて経験したことがない新型コロナウイルス感染症に悩まされているが、こうした病気が頻発する背景には、森林破壊、地球温暖化などの自然破壊があると専門家は警鐘を鳴らす。森林破壊の最たるものはシカの食害。加えて農業被害がある。シカを捕獲せざるを得ない。放置することはシカの集団にとってもエサ不足から共倒れになるばかりだ。誰かが捕獲という辛い役目を負わなければならない。


推定生息数と農林業被害額の推移(H30年度)

 引用:道庁環境生活部自然環境課エゾシカ対策係・活用係

H30年度農林業被害額(作物別)

H30年度農林業被害額振興局)  



NPO法人 西興部猟区管理協会 伊吾田事務局長写真
NPO法人 西興部村猟区管理協会 伊吾田事務局長

 自身がハンターである当倶楽部会員の板倉氏は「エゾシカを撃った後、苦しませないために留目を刺さなければならないが、その時に私はシカから目をそらす。『何で私を殺すの?』と言いたげに私を見るからだ」と語る。その切なさを乗り越えて、板倉氏が猟に出るのは、一重に北海道の森を守り、農家の死活問題である農作物被害を少しでも減少させたいという思いからであろう。4年前にお会いした当別町の向井ハンターは、「山の中を一日中歩き回っても一頭も獲れない日も多い。捕獲は困難なだけでなく、経費が掛かりすぎ、本業にはできない」と話していた。当該本は、「ハンターから見たエゾシカの捕獲の現状と課題」があるとして、以下の5点を挙げた。ハンター減少は高齢化だけが原因ではないことがわかる。「続エゾシカ飼うべ」より抜粋引用する。



  ハンターによる狩猟捕獲はビジネスとして成り立つかどうか 

  捕獲の大変さやインセンティブのなさ 

  ハンターの高齢化 

  駆除捕獲に関する自治体の補助金 

  狩猟免許の取得および維持に関する問題点(P3.17行~19行引用)



・捕獲方法は2つ。 

・エゾシカの狩猟期間は、101日から翌年131日(地域により期間が異なる)まで(北海道環境局 自然環境課HP)。 

  11月~翌年の131日までの狩猟期間中に狩猟(趣味)を行う場合→狩猟捕獲 

  農林業被害や生活被害の防止のために春~秋に捕獲をする場合(有害駆除)→許可捕獲(市町村の許可が必要)  

「狩猟(趣味)」の場合、狩猟者登録をすることで、猟期になれば、狩猟が禁止されている場所を除けば何処でもエゾシカを捕ることができる。一方、有害駆除は誰でもができるわけではなく、そのエリアを当該市町村に限定し、さらに春や夏といった狩猟期間以外に捕獲が行われる。やっている行為は同じでも狩猟とは全く別物と考えてよい。(P7.16~23行引用)


増加する鳥獣被害対策として国は平成19年度に「鳥獣被害防止特措法」を制定し、国が補助金で捕獲を奨励することになった。

これは画期的なものであり、エゾシカ捕獲を行うインセンティブとはなったが、新たな問題を生む引き金ともなった。報奨金という利権

がハンターの縄張り意識を顕在化させ、一部では猟友会の分裂、報奨金の不正受給という問題も発生させている。夏場の駆除はダニにか

まれるリスクも高く、冬とは違い草木が生い茂り撃つ場所も限定され、獲物もみつけにくい。捕獲できなければ報奨金はゼロ。それでも

有害駆除による捕獲頭数が狩猟による頭数を上回るのは報奨金にあるという。(P7~P8 要約) 


「ハンターを取り巻く様々な規制」

 道内の狩猟者登録数30年間で半分以下になった。理由としては、ハンターの高齢化が指摘されているが、その根底には高齢ハンターから新人ハンターに至るまで、様々な負担や規制があることに起因している。まず、ハンターになるためには、狩猟鳥獣を捕獲する「狩猟免許」と鉄砲を所持するための「鉄砲所持許可」の2種類の免許を取得することが必要である。どちらも試験に合格することが条件となる。(P5.1~14行引用)


 特に大変なのは鉄砲所持許可である。P.5 15~行) 

「鉄砲所持許可」を受けるには、「筆記試験」とクレー射撃で一定数の的中を条件とする「技能検定」という2つの関門をパスする必要が

ある。この後も精神系病院での健康診断、書類提出や面接などで何度も警察に通い、さらに身辺調査や自宅訪問が行われ、鉄砲を手にす

るまでに最短でも6ヶ月はかかることになる。さらにその後も毎年1回行われる銃検査と3年ごとの所持許可更新という大きな負担がハンタ

ーに重くのしかかってくる。また、銃刀法の規制はとても厳しく、銃を車内へ置きっぱなしや、日の出前や日没後の発砲は違法行為とな

る。こうした規制や負担にすべて対応できなければ銃を持つことは許されない。警察当局とてしは銃による犯罪や事故を防ぐことが目的

なので、銃を持つ人間をきちんと管理しておきたいというのはわかるが、一方で銃所持に関する規制や負担がハンター減少の原因になっ

ているのも事実なのである。(中略)  

年々ハンターが減少している中でエゾシカを獲るための新たな担い手を育てる必要があるが、そのためには非常に長い時間がかかる。

ハンターの減少に歯止めがかからない現在、このままではハンターの方が「絶滅危惧種」となりかねない状況である。


付記1:酪農学園大学狩猟管理学研究室准教授 伊吾田宏正氏の講演(於:当倶楽部主催 第2回エゾシカフェスタ

頼りとなるハンターは3分の2が60歳以上。実にハンターこそ「絶滅危惧種」だ。一方で、林業に興味を持つ学生、女性が増えている。国内初の酪農学園大学狩猟管理学研究室には、これらの若い学生たちが集まってくる。未来の生態系の守り人だ。年間30名が本学園で狩猟免許を取得。しかし、銃の所持許可は警察の管轄であり、規制が多い。そのため、狩猟免許より銃を手にすることの方が困難だ。


付記2:生体捕獲に於いても問題点はある。

 かつてハンターによる銃猟が主なものであった。しかし、ハンターの高齢化により、人数が減少し不足する一方、近年は生体捕獲(生け捕り)のワナ猟が増加している。生体捕獲は安定した品質の肉を得やすいことなどから、ジビエ需要を背景に流通業者の評価は高いという。しかしながら生体捕獲ワナにおいて、固定ワナの場合だと数年経過したらエゾシカがその場所を記憶してしまい、ワナに入らなくなるといった問題点がある。また移動ワナの場合は、設置場所の制約と解体・設置にかかる費用が大きくなることから、これらを解決できる移動ワナを開発する必要がある。(P2.13P3.7行目迄)


質問:有害駆除の報酬は何処が支払うのですか?

   有害駆除は市町村が依頼するので、市町村が払います。一部、国(農水省)が支払う事業もあります。

    国が支払う場合は、市町村が現物(耳または尾)を確認することになっています。また、国が支払う場合は北海道を経由します。