◇◆「後志地域生物多様性協議会の取組について」②

環境DNAを用いた生き物調査(e-水プロジェクト支援事業)


                              札幌環境プラザ2階 環境研修室 (平成281129日 15:3016:50) 

                  後志地域生物多様性協議会事務局長  髙橋 興世


後志地域生物多様性協議会について

ニセコ連峰
ニセコ連峰

 

後志地域の豊かな自然を守り、自然の恵みを持続的に活用していくことを目的に、後志管内の町村や広域で活動している団体が集まり、平成23年に後志地域生物多様性協議会が発足しました。

現在は15市町村と2つの広域活動団体が参画して活動を行っています。 主な取組は後志地域の生物多様性に関する情報の収集、自然環境をテーマとするイベントの開催、facebookなどを通じた情報の発信、外来生物の防除活動など。


積丹半島
積丹半島
エゾカンゾウ
エゾカンゾウ
賀老の滝
賀老の滝


■後志地域の自然環境について  後志は国内にすむ生きものの分布の境界にあたる地域として重要です。 

 (例)[自生地の分布南限]イトウ、オショロコマ など    [自生地の分布北限]ブナ など。


ブナの黄葉
ブナの黄葉
ブナ林
ブナ林


一方で、エゾシカなどの野生鳥獣の分布拡大や、アライグマ、ウチダザリガニなどの外来生物の分布拡大、それらが顕在化することによる私たちのくらし(生活や産業)とのあつれきが懸念されています。


 ■環境DNAを活用した生きもの調査について

イトウ
イトウ
サケ
サケ
ヤマベ
ヤマベ


山梨県とほぼ同面積の後志地域の自然を調べるには膨大な時間、人手、費用がかかるため、効率的に自然環境の状況を調べる方法を探していたところ、極めて新しい技術である「環境DNA」を使った調査の存在を知りました。 環境DNAとは、川や湖、海の水中に溶け込んでいるDNAのことで、生物から分泌された粘液や糞、体の断片などに由来します。環境DNAを調べることで、調査場所とその周辺における、「調べたい生きものの“いる・いない”」、その場所にすむ生きものの種類数が分かります。 調査したい場所から1~2リットルの水を採取するだけで、「探したい生きもののいる・いない」と、その場所に「どんな種類の生きものがいるか」を同時に、短期間(1週間程度)で調べることができるとてもユニークな調査方法です。

 

これまでの調査との違いは、水のなかに潜ったり、網で捕獲したりしなくてもよいため、生きものや自然への影響が少ない形で調査ができる点。また、水を汲むだけなので、生きものの分類方法を知らなくても正確な結果が得られるので子どもの参加も可能です。 平成28年度は、後志地域の14河川、湖(25箇所)で、外来生物(ウチダザリガニ)、希少生物(ニホンザリガニ、イトウ、アユ)の分布状況を試行的に調べ、一定の成果が得られました。今後は、調査を継続していくなかで、広範囲を対象に短期間で効率良生息状況を調べることができる方法を見出していきたいと考えています。


北限域のアユについて

朱太川で捕獲された鮎。胸のあたりにある黄色い円形の模様は「追い星」と呼ばれ、 アユが縄張りを作ると出てくる模様だという。
朱太川で捕獲された鮎。胸のあたりにある黄色い円形の模様は「追い星」と呼ばれ、 アユが縄張りを作ると出てくる模様だという。

今回の環境DNA調査から後志地域の複数河川においてアユの生息が確認されました。 余市川を含む後志地域が国内のアユ北限域であることは知られていましたが、今回の調査で改めて河川毎の状況が広域的に確認されました。また、一部の河川、支流でDNAが検出されなかったため、今後は非検出となった環境要因(遡上阻害構造物など)を解明する事となります。


・アユは1年で寿命を迎える「年魚」なので、その年ごとに資源量が変化することが予想されます。 ・将来的には環境DNAを用いて毎年

 のアユ資源量を把握することで、資源量が少ない場合は漁獲制限などを検討するなどアユの持続的利用に資するための基礎情報を得る

 ことが可能になります。

 

・ アユは秋に生まれてすぐに海に下って冬を越し、春になると川に遡上して夏から秋まで川底のコケ(珪藻)を食べて成長します。

 分断されない川と海の健全な繋がりが重要で、さらに川に溶け込む森からの様々な栄養素がアユの成長を支えています。


今年9月に開催された第19回清流めぐり利き鮎会では、全国の56河川から出品されたアユの中から黒松内町の朱太川産天然アユが最も美味しいとの評価を受けてグランプリを獲得しました。朱太川は平成25年からアユ種苗放流を休止しており、全国的にも極めて希な完全天然アユだけが生息する川です。後志地域の日本一美味しい鮎を維持するためにも、将来にわたり森と川と海の繋がりを良好な状態で維持することが求められます。

(写真は後志地域生物多様性協議会事務局長 高橋興世氏&(公財)日本生態系協会 亀田 聡氏)


                     後志地域生物多様性協議会の取り組みについて⓵