エゾシカレザー & ビーガンレザー。その違いは?


菊地 隆会員 & 板倉修一会員 (2023.7.30)


(1)進む毛皮ばなれ

この10年、海外ナショナルアパレルブランドでは完全なる「毛皮(リアルファー)離れ」が進んでいる。グッチをはじめ、ヴェルサーチアルマーニ、ヒューゴボス、バーバリー、ジャンポールゴルチェ、ダナキャランなど、ヨーロッパ、アメリカでもリアルファーの製品使用をやめる傾向は、アパレル業界全体に広がっている。


背景にあるのは、飼育環境の悪さや屠場の方法。動物福祉の観点からも毛皮を剥離する際の方法などについて、動物への倫理的扱いが求められているのだ。動物愛護を広い視点で考えると、必ず環境保護に辿り着く。特に、毛皮については古代より暖をとる為のものであった筈が、歴史を経る中で、高級衣類として定着。毛皮をとる目的での養殖業が栄え、一つの産業として育ち、現代に至っている。現在では、素材開発がすすみ、暖をとる手段としては、多くの代替素材が生まれ、 贅沢(ラグジュアリー)衣料の素材としての意味合いが強くなってしまった。だとすれば、リアルファーを使うためだけに生命を生み出すことはどうなのかという視点からも毛皮離れが進んだといわれる。



動物愛護には、いくつかの大きく分けた観点があり、一つは「動物の倫理的扱い及び動物福祉」「生態系の保護」「動物実験廃止などの動物の尊厳」などになる。グローバルに考えると菜食主義推進(ヴィーガン、ベジタリアン)の方々でも、毛皮については反対だが、革靴などの皮革製品は使うという方が多いのが現状である。


シカ革製品に関心を示す受講者の写真
シカ革製品に関心を示す受講者

(2)   レザー(皮革)について

動物愛護と皮革(レザー)については、毛皮同様のラグジュアリー素材にも近年、動きがある。クロコダイル、ダチョウ(オーストリッチ)という素材を得るためにもたらされた「生命」という観点である。現にエルメスでも、オーストリッチ、クロコダイルは話題になった。


飼育環境下の状態なども論点となる。古来より動物福祉の観点から皮革(牛・豚・羊などの畜産種)に対しても同様だ。現在、多く物流している皮革素材である牛や豚など、革製品として広く流通している動物に関して、皮を取るために殺すことは禁止されていて、多くは食肉加工過程の副産物がレザーに利用されている。



そのため、畜産副産物という側面からみると動物を余すことなく利用するという点では、毛皮ともクロコダイル・オーストリッチとも違うという部分もあり、食肉における家畜環境下など飼育管理を含めたアニマルウェルフェアに基づいた考え方で、日本国内では原皮が生まれ皮革が作られている。


近年の動物皮革(レザー)に対しても さまざまな代替素材がでたことにより皮革からの切り替えも多くなり、企業姿勢の整備と消費者へのアプローチにも配慮することが必須となってきている。レザー本来の温かさ・暖かさと風合い、そして古来より日常生活の素材として使われてきた歴史や文化を含め、皮革素材の良さを今の時流にマッチングさせたブランディングと「想い」が必要になってきたのではと感じている。エゾシカレザーは、「しなやか」「洗える」「硬くならない」などの特徴を備えている北海道の誇るべき資源である。


(3) ビーガンレザー

「ビーガンレザー」とは、リアルレザーに対し、動物の革を使わないレザー素材のこと。人工皮革、合成皮革、フェイクレザーなどと呼ばれてきたが、印象が良くないとの理由からビーガンレザーと名称を都度変えてきた。動物に苦痛を与えない、循環型社会に寄与する等のPRで、植物性レザー(リンゴの皮、キノコ、パイナップル、サボテン等の葉の粉末を石油製品で混ぜて作られる)を推奨する向きもあるが、果たしてそうだろうか?

環境に良いなどとも言われるが、石油が使われていることや最終処分に係る費用を考えれば疑問。ビーガンレザーを作っているのは生地業者であり、彼らにとっては儲かる商売となる。 


(2)    ハンターの立場から板倉氏の提言

第2部 菊地氏と板倉氏。そして市民との対話の写真
第2部 菊地氏と板倉氏。そして市民との対話

北海道の森林面積5.54万平方km。エゾシカが自然植生に影響を出さないで済むには1km四方につき、3~5頭。適正数は約27~30万頭。現在の推定生息数70万頭は明らかに過剰。捕獲が必要だし、循環型社会の構築のためにも捕獲後の利活用が望まれる。廃棄のための費用は高額。一見、妥当と思われる社会の見識に対し、立ち止まって考えてみる必要がありはしないか。弱者からの搾取はないか 原材料は何なのか 生産過程で消費されるエネルギー量、お金の流れはどうなっているか?商品選択に際しては、価格、用途にあわせ、リアルorビーガン製品を選べばよいのでは?



(3)    参加者との討議内容

北海道の森林10万㌶がシカに食われている。突き詰めていけば、環境問題、食料問題に突き当たる。今後の食料危機に備えてエゾシカを活用すべき。その際に生じる副産物としての皮や角も当然利用すべきもの。それらは、北海道の文化資産としての価値を持つ。こういった問題提起ができる団体があることを知らなかった。他人事ではないことを思い知った。