エゾシカ皮と北海道 そこから生まれるエシカルライフ


NPO法人 エゾシカ利活用協議会 代表理事・エゾプロダクト代表   菊地 隆氏


4月20日。北海道を代表する鹿革デザイナー菊地 隆氏によるセミナーを行った。今回は現場のハンターさんたちが参加したこともあり、受講者からの質問も活発。有意義な会合となった。 


菊地 隆氏
菊地 隆氏

(1)  進む毛皮ばなれ

この10年、海外ナショナルアパレルブランドでは完全なる「毛皮(リアルファー)離れ」が進んでいる。グッチをはじめ、ヴェルサーチアルマーニ、ヒューゴボス、バーバリー、ジャンポールゴルチェ、ダナキャランなど、ヨーロッパ、アメリカでもリアルファーの製品使用をやめる傾向は、アパレル業界全体に広がっている。

背景には、動物の倫理的扱いを求めるという観点からの飼育環境の悪さや毛皮を剥離する際の方法などが指摘されている。特に、毛皮については古代より暖をとる為のものであったのものが、現代社会においては素材開発がすすみ、暖をとる ということでは、多くの代替素材が生まれ、 贅沢(ラグジュアリー)衣料の素材としての意味合いが強くなっている。だとすれば、リアルファーを使うためだけに生命を生み出すことはどうなのかという問題もある。


2) レザー(皮革)について

現在、多く物流している皮革素材である牛や豚など、革製品として広く流通している動物に関して、皮を取るために殺すことは禁止されていて、多くは食肉加工過程の副産物がレザーに利用されている。そのため、畜産副産物という側面から動物を余すことなく利用するという観点から、食肉における家畜環境下など飼育管理を含めた“アニマルウェルフェア”に基づき、日本国内では原皮が生まれ皮革が作られている。近年の動物皮革(レザー)に対しても さまざまな代替素材がでたことにより皮革からの切り替えも多くなり、企業姿勢の整備と消費者へのアプローチにも配慮することが必須となってきている。レザー本来の温かさ・暖かさと風合い、そして古来より日常生活の素材として使われてきた歴史や文化を含め、皮革素材の良さを今の時流にマッチングさせたブランディングと「想い」が必要になってきたのではと感じている。


(3) エゾシカレザー と動物愛護

熱心に聴き入る受講者の写真
熱心に聴き入る受講者の方々

この20年、日本全国で野生動物が急増しつづけている。北海道では個体数管理のために毎年10万頭以上の狩猟・間引き(駆除)が行われている。当社では、“ 循環型社会における野生動物との共生社会確立を目的とし、生物多様性を基本に毎年 個体数管理により行われるエゾシカの狩猟・間引きにおける食肉利用後の皮の利活用について、 失われゆく命を繋いでいくために “ イノチ ヲ ツナグ ” という理念のもとにレザーメーカーとしての事業を進めている。

エゾシカレザーは、 動物愛護の観点からも問題にはなりづらい面を持っている。他の皮革素材からみてもその環境背景により CSR(環境への取り組み)としても理にかなった素材といえるのではないだろうか。


当社は、道内の中学校・高等学校・大学で環境教育の一環として、エゾシカレザーの利活用をすすめてきた。北海道のNPO動物愛護団体の犬用 首輪、リードをエゾシカレザーで製作した経緯もある。現在その動物愛護団体は狩猟後のエゾシカを利活用しペットフードを開発し販売している。


質問に答える菊地講師の写真
質問に答える菊地講師
イノチヲツナグに情熱がこもる写真
イノチヲツナグに情熱がこもる
角や革製品の展示写真
角や革製品の展示


さて、エゾシカレザーはSDGs (続可能な開発目標)“2030年までに達成すべき17の目標”に対応した素材でもある。「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標であり、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものである。

 

エゾシカレザーは、項目12(つくる責任・つかう責任)・15(陸の豊かさを守ろう)に係っている。