エゾシカ猟が原因!猛禽類が鉛中毒に!

獣医師・斎藤慶輔氏の熱き闘い「野の者は野へ返すために」


2016年12月10日「きたネットフォーラム2016」に参加した。そこで知ったのは、エゾシカ猟が原因でワシ達が鉛中毒になっているという悲惨な事実だ。私たちに何ができるだろうか。


◇◆「なぜ猛禽類を守るのか」


齊藤慶輔獣医師の写真
齊藤慶輔獣医師

基調講演タイトルは「野生の猛禽を診る・守る」。講師は「猛禽類医学研究所」代表の齊藤慶輔獣医師。最果ての地、釧路湿原内にある野生生物保護センターを拠点に、傷ついたシマフクロウ、オオワシ、オジロワシといった絶滅寸前の希少猛禽類の救護活動をされている。

野の者は野へ返す…これが齊藤先生の信念だ。「可哀想だから助けてあげる」といった慈善活動としての救護ではない。野生動物の救護活動は、弱者が衰退し、より強いものが生き残るという自然界のルールに逆らってまで行うべきではないという。だが、人間の営みが遠因となって野生動物が傷つき、病気にかかったのであれば、人間が責任を持って治療して野生に返す義務がある。野生動物の生き方を尊重し、彼らと真摯に向き合うために苦闘を越えた20年。命の現場からの発信だ。エゾシカ問題に係る者として見過ごせる情報ではなかった。国の天然記念物であるオオワシやオジロワシの悲劇「鉛中毒」に、エゾシカ増加が深く係わっていたからである。 


音更町 田原氏撮影(複製厳禁)
音更町 田原氏撮影(複製厳禁)

猛禽類とは、ワシ、タカ、フクロウ類などの鳥類のことで、食物連鎖の頂点に立つ捕食者だ。捕食により広い範囲で下位の動植物のバランスを守る「傘」としての役割をもつことから「アンブレラ種」と呼ばれる。彼らは他の動物より数が少ない。生態系ピラミッドの上に立つ者ほど、食料も限られ、数も少なくなるからだ。

特にオオワシやシマフクロウなどの大型猛禽類は絶滅の危機にある希少種。

日本では、「種の保存法」により、厳重に保護されている。数が少ないということは、一羽の命が種の存続に大きな役割を担っていることを意味する。

 傷ついた彼らを治療して野生に返すことは、個体のみならず種全体を守ることに繋がり、生態系を維持し、生物多様性の保持にも貢献することになる。更に猛禽類は、数は少なくても生態系全体のバランスを保つうえで重要な役割を担っているため、石橋などの要石(キーストーン)に例えて「キーストーン種」とも呼ばれている。彼らの健全な生活を守ることは、野生動物と人間を取り巻く自然環

                          境を守ることに繋がる。 


◆◇「この素晴らしい者たちをこの地球上から葬り去ってはならない」


音更町 田原氏撮影(複製厳禁)
音更町 田原氏撮影(複製厳禁)

希少種であるシマフクロウは翼を広げると1m60cm~1m80cm(畳一枚)。現在の生息数は道内にわずか140羽ほど。道外では、北方領土とサハリンにしか分布していない。

世界中の人が一度は見たいと憧れるオオワシは、世界三大巨鳥の一つ(三大巨鳥とはオオギワシ、フィリピンワシ、オオワシ)。羽毛が白と黒に染め分けられた美しい鳥で、翼を広げると2m40cm、体重9kgという日本最大の猛禽類だ。

冬鳥としてシベリアから渡来する。世界中で5000羽しかいない。その内、2,000~2500羽が道内で越冬する。

翼を広げれば、これも2メートルあるオジロワシはオオワシに似ているが、身体に白い部分が無い。厳しい自然の中で生きていく、美しく孤高な鳥たち。生態系になくてはならない彼らだが、往々にして悲惨な死に方をするという。中でも彼らを苦しめるのが「鉛中毒」で、オオワシの場合、死因の35%を占めている。 


現在の地球は人間活動による影響を強く受け、生態系の健全性が損なわれつつあるが、その影響を真っ先に受けるのは、彼ら猛禽類なのだ。車との衝突、止まり木として利用した電柱での感電事故、発電用風車との衝突、更にはアライグマなどの外来種に襲われて命を落とす幼鳥もいる。これらの傷病や事故の原因として人間活動が関与しているなら治療だけでは不十分。彼らの苦しみや命を無駄にしないためにも、その原因を調査し、再発防止に向けて、その根源を絶っていかなければならない。

「この素晴らしい者たちをこの地球上から葬り去ってはならない」からである。聴く者の肺腑をえぐる言葉だった。