• ホーム
  • 団体概要
  • サイトマップ 
  • 活動記録
  • エゾシカセミナー3連続講座
  • エゾシカフェスタ
  • 捕獲・ハンター
  • 生物多様性
  • 会員レポート・構想
  • 人獣共通感染症
  • シカと森林
  • エゾシカA to Z 
  • エゾシカ衝突事故
  • シカ肉
  • シカ角
  • シカ皮講座(竹之内一昭)
  • 鹿と漢方
  • シカ皮・革
  • エゾシカ先進地情報
  • 鹿プロ
  • ブログ
  • 問い合せ先
  • リンク集
  • 環境報告書展2023特設会場

◆◇正倉院の鹿毛筆


(元北海道大学農学部 竹之内一昭) 2016.07.05


 正倉院には聖武天皇(701~759)ゆかりの美術工芸品や生活用品が9千点ほど収蔵されており、それらの数十点が奈良博物館の秋の「正倉院展」で展示されている。収蔵品の中に、動物の毛を用いた筆や伎楽面、毛氈などが多数含まれており、それらの材質調査をした。 


 正倉院の筆は天平宝物筆1本と筆17本の計18本である。斑紋を持つ竹を管として、象牙の飾りや黄金の帯が付けてある。現在の筆は獣毛を糸で巻き(苧お締じめ)竹管の中に挿し込み(すげ込み)、フノリで固めた水すい筆ひつであるが、正倉院の筆は全て紙を巻いた巻まき筆ふでである。 これは中心の毛(芯毛)の腰部分を和紙で巻き、さらに毛で巻き、これを繰り返し、一番外側に化粧毛を被せ、根元を糸で巻いて竹管に挿し込む製法である。筆全体を筆穂と言い、竹管から出ている穂を筆鋒と言い、その尖端部分を穂先あるいは命毛とも呼ぶ。穂形から長鋒、中鋒、短鋒に分類され、正倉院の筆は短鋒筆で、その形状が雀の頭に似ていることから「雀頭じゃくとう筆ひつ」と称されている。 


 天平宝物筆は管長が56.6cm、管径4.3cmであり、管には、「文治元年八月廾八日開眼/法皇用之/天平筆」とある1)。天平勝宝4年(752)の東大寺大仏開眼会に使用されたのち、文治元年(1185)再建なった大仏開眼供養の際にも後白川法皇が用いたとされてい る。


この筆は毛が巻紙を挟んで5段構造になっている「五営成筆」の巻筆である(図1)。第1営(芯毛)は尖端部がほぼ残っており、今でも文字が書けると思われる。第2 ~ 4 営の毛は部分的にしか残っておらず、第5 営(化粧毛)の毛は全て脱落している。第1 営には墨が大量に付着しているが、第2 ~ 4 営の残毛の先端部分に墨が多少付着しているだけである。このような大筆では、筆鋒の先端部だけを下して、使用したことが推測できる。


 第1営は毛色が濃茶色あるいは黒色である。毛皮質は比較的厚く、細かな毛髄質が観察され、馬毛または鹿毛と推定される。第2営は白っぽくて、毛皮質が薄く、空隙の多い毛髄質から鹿毛と判定した。鹿毛には日本産あるいは中国産、東南アジア産(山馬)のものがある。第3、4営の毛も第2と同様であり鹿毛と判定した。抜けた毛が一本観察され、根元部が急に細くなり無髄になっている。これは鹿毛の表皮付近の根元部の特徴である。第5営は毛の2 層と、外側に鳥羽根の層の計3 層構造となっている。下層の毛は色が茶褐色で、形状は丸く、ストレートに近く、透明な飴色に見えることから、毛髄質のない馬毛の可能性がある。上層の毛は、摩耗が著しく、毛色が白く、毛髄質は多孔質(格子状)で、毛小皮紋理(スケール模様)は大きな鱗状(横行波状または山形)となっており、鹿毛の可能性がある。さらに、最外層には擦り切れて折れた白色と黒色の羽軸が観察される。鳥種は不明である。儀式用筆の飾りとして巻かれたものと思われる。


 筆毛の材質について、過去の調査結果(昭和28~30年)では、「大きい鱗片を持った毛は鹿毛で、少し褐色を帯びた細い毛は羊毛と見られた。穂毛の芯は黒く、狸毛と判定した。」となっている。しかし、筆業界では山羊毛を「羊毛」と称し、当時山羊毛を使用した事例は見たらず、今回の調査では化粧毛の下層は馬毛と推定した。


 筆は第1号から17号の17本あり、大部分は管長が17~22 cm、管径が1.9~2.3 cmであり、第8号と第16号がそれぞれ10.9 cmと14.4 cmと短く、第16号と17号が共に1.4㎝と細い。これらの筆の11本が3 段構造の三営成筆の巻筆であり、他の6本が4段構造の四営成筆である。第2号は明治時代に修理した形跡がある。第1~16号は筆鋒が円形であるが、第17号は楕円形であり、竹管内部を楕円形に削ってある。

これらの筆に使用されている獣毛は主に鹿と兎、狸であり、他に馬、山羊の毛と判定あるいは推測された。各営が同種の毛からなるものと異なるものがあった。


第8号は第1営が残存しておるが、第2営が一部欠損しており、第3営が数本残っている(図2)。この筆には笠状の筆帽があるが、他に円筒状の物もある。第8号の各営の毛は寸胴形、円形の断面、横行波状のスケール模様、毛髄質の多さなどから鹿毛と判定された。第6,7,10,12号は各営がダンベル状であり兎毛と判定され、第9,11号は兎毛と推定またはその可能性があった。第15号はスポンジ状の毛髄質と比較的厚い毛皮質から狸毛と判定された。


 第2号の第1~4営は鹿毛と山羊毛または狸毛との混合と判定または推定された。第3号は第1と2営が兎毛であったが、第3営は鹿毛であった。第4号の第1営が鹿毛または馬毛と推定され、第3営が鹿毛と狸毛の混合と判定されたが、第2営は第3営に覆われ観察できなかった。第5号は第1営が鹿毛または馬毛と推定され、第2,3営が兎毛と判定された。過去の調査でも兎毛と判定されている。第16号は3営構造であり、第1,2営が狸毛と推定されたが、3営が3層構造であり、狸毛と鹿毛、鳥羽であった。


第1号は第1営と2営が狸毛と判定または推定されたが、第3営は奥深いところに残っており、観察が困難であった。第13号は第1営と4営が狸毛と推定され、過去の調査と一致した。なお第2,3営は4営で覆われ観察できなかった。第14号は第1,3,4営が狸毛と推定されたが、馬毛の可能性もある。第2営は茶色であったが、種類は不明であった。第17号は第1,2営がそれぞれ狸毛と推定されたが、第3営がダンベル状であり兎毛と判定された。なお過去の調査では、上毛は羊毛とされていた。 



     図1 天平宝物筆1)                        図2 筆 第8号1)


 参考文献 1) 竹之内一昭,奥村章,福永重治,向久保健蔵,実森康宏,ジョリー・ジョンソン,本出ますみ:毛材質調査報告,正倉院紀要, 37 (2015)    P. 1.


鹿毛の筆
シカ皮講座
ホーム

  • シカ皮の鞣し(竹之内一昭)②
  • 学術レポート
  • 古代の鹿革製品(竹之内一昭)③
  • 中世・近世の鹿革製品(竹之内一昭)④
  • 正倉院の鹿毛筆(竹之内一昭)
  • 鹿毛の筆(竹之内一昭)

             

公益社団法人 札幌消費者協会「北海道エゾシカ倶楽部」 代表 武田佳世子

                          060-0808 札幌市北8条西3丁目 札幌エルプラザ2階                                     

                                                     TEL :011-728-8300 / FAX 011-728-8301         E-mail:ezoshika_club@yahoo.co.jp

プライバシーポリシー
Copyright(c) 2013 北海道エゾシカ倶楽部 All rights reserved
ログイン ログアウト | 編集
  • ホーム
    • 最新情報一覧
  • 団体概要
    • 代表ご挨拶・役員紹介
    • Club's Profiie
    • 札幌市のSDGsへの取り組み
  • サイトマップ 
  • 活動記録
  • エゾシカセミナー3連続講座
    • エゾシカと納豆2015.5.30
    • エゾシカ皮から膠を作る
    • 身近な生活にエゾシカ皮を!
    •  オオカミと日本文化
    • あそビバ!エコプラザ 2020.1.11
    • お手製カルタ人気!道立博物館出展
    • 高校でエゾシカ講座
      • 平成25年度 エゾシカ倶楽部活動一覧
    • エルプラまつり 2017.9.9
      • エルプラまつり 2016.9.10
      • 2013.9.7 エルプラまつり
  • エゾシカフェスタ
    • 第7回エゾシカフェスタ2019①
      • 第7回エゾシカフェスタ2019②
      • 高校生のボランティア感想
    • 第6回エゾシカフェスタ2018①
      • 第6回エゾシカフェスタ②シカ増加は空飛ぶ鳥にまで
    • 第5回エゾシカフェスタ2017
    • 第4回エゾシカフェスタ2016
      • エゾシカフェスタ2016②
    • 第3回エゾシカフェスタ2015 ❶
      • エゾシカフェスタ2015❷道庁
      • エゾシカフェスタ➌アイヌ文化
      • エゾシカフェスタ2015➍
      • エゾシカフェスタ➎反省会
    • 第2回エジシカフェスタ
      • 2014.10.27伊吾田宏正准教授のお話から
      • 10.27 アルバム❶
    • 第1回エゾシカフェスタ2013 10.26 特集
      • 2013.10.26 パネルディスカッション
      • 10.26アルバム
      • エゾシカフェスタ・アンケート結果
  • 捕獲・ハンター
    • ハンターに聞いてみよう!エゾシカのこと
    • 知ってますか?ハンターのこと
      • エゾシカ猟シーズン終了!統計データによる事故分析
    • 「狩猟者の現状と今後の野生鳥獣対策」
    • ハンター 林 豊行氏ブログ
      • メスのエゾシカがオス化?
    • 変形角(坂本達也氏)
    • エゾシカ捕獲の課題とは?
      • 野生動物を安全に食するための法令等
      • 北海道エゾシカ対策推進条例
      • 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
      • ジビエブーム到来か。国が衛生指針
  • 生物多様性
    • 気候変動が変える。生き物と私たちのくらし
    • 野生動物と地域社会の未来
    • 人類の前に立ちはだかるもの感染症
    • 私たちのくらしと生物多様性(札幌市講座)
    • 生物多様性の危機!
    • 人は街で、ヒグマは森で(ヒグマ講座)
    • 流行語大賞「OSO18/アーバンベア」トップ10入り
      • 「モーリー」編集長が語る魅惑の北海道
    • エゾシカ猟が原因!猛禽類が鉛中毒に
      • エゾシカ増加がワシ達にもたらしたもの
    • 後志地域生物多様性協議会の取り組み
      • 環境DNAを用いた生き物調査
      • 後志地域生物多様性協議会 2017年
      • カラスの誕生とその顛末
  • 会員レポート・構想
    • なぜ、シカは鉄路に侵入するのか
    • エゾシカを知り共生を考える
    • 地球温暖化でエゾシカはどうなる?
      • エゾシカはもはや可愛いバンビではない
      • エゾシカ随想「究極の地産地消」
    • エゾシカ猟「狩猟特区」の構想
    • スポーツハンティング構想
      • 霧多布湿原でエゾシカと出会う 2016.3.25
      • エゾシカモニターツアーに参加しました
      • 生物境界線黒松内低地帯日帰り紀行
  • 人獣共通感染症
    • 食品衛生上の諸問題
    • シカ肉を安心して食べるための知識(籠田勝基)
    • 公衆衛生上注意すべき人獣共通感染症
      • 鳥インフルエンザ!人への感染は?
      • 食品安全委ファクトシート公表
  • シカと森林
    • シカと植物(高槻氏講座より)
    • エゾシカ活用セミナー(山田晴康)
    • シカと森林生態系の話 青柳正英
    • シカが増えてヤマビル増加!
      • エゾシカの食害風景
      • エゾシカ被害状況2013.9.24
  • エゾシカA to Z 
    • 野生動物に学ぶ(小川 厳)
    • 天塩町にて。留萌管内消費者大会
    • シカの数を増やしたのは誰なのか?
    • 北緯43度は発酵ライン(永田吉則氏)
    • エゾシカと納豆セミナー
    • エゾシカの裏と表(菊地隆)
      • 北海道新聞の注目記事
      • 小さな町が挑んだエゾシカ大事業
    • 北海道のエゾシカ対策2014. 7.15
      • Study meeting report in 2014
    • 驚きのエゾシカ事情 2013.7.18
      • Study meeting report in 2013
  • エゾシカ衝突事故
    • 「動物注意」道路標識の謎!
      • アナタを救う保険はコレだ!
  • シカ肉
    • シカ肉料理の魅力を味わう!
    • 蕎麦とシカ肉の調理実習
    • 北海道の衛生処理マニュアル&処理施設認証制度
    • もっと知りたい!エゾシカ肉 2015.3.23
    • 居酒屋店主が指南!旨さ抜群シカ肉調理
    • これぞ最高!ハンター松前の猟師めし
    • 三笠高校レストランにて
    • 風の街 苫前町でエゾシカイベント
    • 鹿肉の栄養価について
      • エゾシカと認知症
      • 軽部光の健康教室(エゾシカよ!役立て!)
    • NHKほっと中継 2018.11.12
    • NHKライブ北海道
      • 2014年「今年の一皿」はジビエ料理
      • 2017会員のための料理研究会
      • 2014.会員のための料理研究会
      • 2013会員のための料理研究会
      • 白石区・豊平区合同地区活動
      • Venison Restaurant Guide 「Nakamachi-Gabacho」
      • 「Nakamachi-Gabacho」
      • エゾシカ料理&国際交流会
  • シカ角
    • エゾシカを見たい!オーストラリアからお客様
      • オーストラリアと北海道のシカ事情
      • オーストラリアのシカ写真
    • 「アメリカ鹿事情」&「クラフト教室」
    • シカ角と黒曜石で北の文化を提案Gyusup(in USA)
      • 白滝村の黒曜石は世界一。Mr.Josephと行く!
      • シカ角とクラフト講座準備始める!
      • シカ角工芸を楽しむ
      • シカ角加工教室に参加
      • シカ骨・歯・爪
  • シカ皮講座(竹之内一昭)
    • シカ皮の鞣し(竹之内一昭)②
    • 学術レポート
    • 古代の鹿革製品(竹之内一昭)③
    • 中世・近世の鹿革製品(竹之内一昭)④
    • 正倉院の鹿毛筆(竹之内一昭)
    • 鹿毛の筆(竹之内一昭)
      • エゾシカ皮の活用会員向け講座(竹之内一昭)
  • 鹿と漢方
    • レシピなし!ぶっつけ本番!鹿肉水餃子
    • 堀田式 新型コロナ対策
    • エゾシカは生薬の宝庫!(鄭健)
    • 漢方薬!エゾシカの角と角からとれる膠
    • シカと漢方薬講座(鄭権)
    • シカは「薬」として使えるのか?
  • シカ皮・革
    • シカ皮有効利用に向けて
    • エゾシカ革加工・親子体験講座 in2024
    • エゾシカ革の魅力 菊地隆
    • エゾシカレザーとビーガンレザー
    • 循環型社会におけるエゾシカの皮革利活用
    • エゾシカ皮利用 2014.6.15
      • 印伝との出合いと甲府の想い出
    • エゾシカ皮の魅力!縄文太鼓演奏会
      • エゾシカレザーで素敵なペンケース製作体験
      • 素敵なエゾシカストラップ講座
      • 2017エゾシカ皮でストラップ講座
    • エゾシカ革を買いました
    • 購入した革は三方から撃たれていた
    • エゾシカ皮と北海道そこから生まれるエシカルライフ
    • 北海道のシカ革デザイナー
      • 菊地 隆
      • 北海道ジビエ・狩猟フォーラム
      • 展示会での菊地氏
    • 「エゾシカ皮の活用・エゾシカ猟(竹之内一昭)①
      • 高倉 豊
      • 原 ななえ
  • エゾシカ先進地情報
    • 西興部村のエゾシカ対策
    • ガイド付きハンティングで地域おこし
      • 西興部村猟区における地域管理の取組みを聴く
    • エゾシカ対策の先進地西興部で学ぶ2016(前編)
      • エゾシカ聖地西興部でシカ肉パーティ
      • 西興部村で解体所見学
      • 「エゾシカ聖地」西興部へ行く 2014❶
      • 「エゾシカ聖地」西興部へ行く②
      • 「エゾシカ聖地」西興部へ行く③
      • 「エゾシカ聖地」西興部へ行く④
      • 滝上町で試食会アンケート西興部村より
      • 新会員森裕子が見た!西興部2018
    • 当別町から
    • トップアスリートを町ぐるみで育む町
      • 環境未来都市からSDGs未来都市へ!下川町のエゾシカ対策
      • 下川町長 谷 一之氏
      • 下川町で「美味しいエゾシカ話」
  • 鹿プロ
    • クオレ三線工房「えぞ三弦」
      • 鉄板串焼店「仲町ガバチョ」
      • シカ肉料理食べある記〈罠」
  • ブログ
  • 問い合せ先
  • リンク集
    • シカ写真集
      • 山田貞司氏
  • 環境報告書展2023特設会場
  • トップへ戻る
閉じる