エゾシカと漢方の深い関係と、その優れた効能・効果、その他の漢方についてもわかりやすい解説があった。
北海道には、野生のエゾシカが多く生息しています。
鹿由来の素材は、古代中国や日本本土で薬として使われてきましたが、北海道のエゾシカを漢方素材として活用する取り組みは、近年になって始まった新しい試みです。
この取り組みは、人の健康だけでなく、環境保全や地域経済にも良い影響をもたらす可能性がある。
漢方では、自然や人の体を「陰」と「陽」という2つの性質でとらえます。
陰は、体を冷やしたり栄養を蓄えたりする静かな力。潤いや落ち着きを与えます。
陽は、体を温めたり活動を高めたりする動的な力。活力やエネルギーを生み出します。
このバランスが崩れると、体調不良につながります。漢方薬は、陰陽のバランスを整えることで、心身の調和を目指します。
北海道の寒さの中で生きるエゾシカは、体を温める「陽」の力を多く持つとされます。
シカは世界で36種。中国だけでも10種類いるが、中国が薬効ありと認めているのは梅花鹿とアカシカのみ。エゾシカは梅花鹿と似ている。野生のシカに薬効がある。養鹿されたシカはそれほどでない。
現在、以下のような部位が漢方素材として注目されています。
・鹿茸(ろくじょう):若い角。体力や元気を高める
・鹿角(ろっかく):成熟した角。血流や腎機能を助ける
・鹿角膠(ろっかくきょう):角から取れるゼラチ ン。血や体力を補う
・鹿骨膠(ろっこつきょう):骨由来の成分。関節や冷えの改善に
・鹿胎(ろくたい):胎盤。滋養強壮
・鹿鞭・鹿筋・鹿腎:精力、筋肉・関節の調子を整える
こんな人におすすめ:エゾシカ漢方の活用例エゾシカ由来の漢方素材は、以下のような悩みを持つ方に向いています。
・ 慢性的な疲れを感じる
・ 手足や腰が冷える
・ 更年期の不調や妊活中
・ 加齢による筋力や骨の衰え
・ 冬に風邪をひきやすい
北海道では、毎年12〜15万頭のエゾシカが捕獲されていますが、多くが未利用のまま廃棄されています。
これを漢方素材として活用することで、次のような効果が期待される。
・ 地域経済の活性化:加工・販売による雇用 創出
・ 環境保全:廃棄コストの削減、生態系の維持
・ 健康増進:自然素材による予防医療の推進
中国では鹿素材が高値で取引されており、需要が高い
・ 日本ではジビエ料理が広まりつつあるが、漢方素材としての活用はまだ少ない
・ 官民が連携すれば、数百億円規模の新産業に発展する可能性がある
実現へのステップ:地域と産業をつなぐ流れ
1. 法律や衛生基準を整える
2. 「害獣」から「地域の宝」への意識転換
3. 成分や効果の科学的研究を進める
4. ブランド化と観光体験の連携(薬膳体験など)
5. 加工・販売・観光をつなげた産業ネットワークの構築
北海道に生息するエゾシカは、漢方的視点から見て、極めて興味深い資源である。
寒冷地に適応したその身体は、体を温める「陽」の性質を強く持ち、冷えや虚弱といった症状に対する補助素材としての可能性を秘めている。
鹿由来の素材は、古代中国や日本の薬物帳にも記録されており、滋養強壮・腎機能の補助・筋骨の強化など、多岐にわたる効能が認められてきた。
特に鹿茸、鹿角膠、鹿骨膠などは、補陽・補血・強筋骨の作用を持つとされ、伝統的な処方において重宝されてきた素材である。
エゾシカは、国産であることによる安心感と、寒冷地育ちという特性から、従来の鹿素材と同等以上の薬効がある。
現代においては、冷え性、疲労感、更年期障害、加齢による筋力低下など、陽虚に起因する症状が増加しており、これらに対する自然由来の補助療法としての価値は高い。
漢方の本質は、自然の力を借りて体のバランスを整えることにある。
エゾシカの活用は、その哲学を体現するものであり、命を無駄にせず、地域資源としての価値を最大限に引き出す道である。
今後、北海道のエゾシカが漢方素材として広く認知され、健康・環境・経済の三位一体の発展に寄与することが期待される。
(東野剛巳 記)
講師プロフィール|鄭 権(薬学博士)
北海道鹿美健株式会社代表。薬学博士。2017年、新ひだか町静内に拠点を構え、廃校となった静内第二中学校の校舎を研究・製造施設として再活用。エゾシカの角・骨・腎・尾などの部位から薬効成分を抽出し、国産漢方素材「ロクキョウ®」を開発した。
「鹿は全身が宝物」という信念のもと、駆除された鹿の命を余すことなく活かす全身活用の理念を実践。中国薬典にも記載される鹿茸や鹿鞭などの効能を科学的に分析し、日本における制度的課題にも取り組んでいる。静内の自然と地域資源を活かしながら、漢方の新たな可能性を全国へ発信している。
FM三角山放送局 ラジオ番組 俵屋年彦